2022年10月07日
トリーター:山本

毎年恒例。9月の毎日クラゲ採集結果

えのすいクラゲチームでは、江の島で「毎日クラゲ採集」をおこなっています。この毎日採集は 2020年 9月のテーマ水槽から始まり、きょうまでの約 2年間、ちゃんと継続できています。段々と濃密なデータが溜まってきて、年ごとの比較ができるようになってきました。今回は「2022年 9月」のデータに注目し、2020年2021年の 9月の結果と比べて見ていきたいと思います。

これは 2022年9月1日~ 30日までの間に、江の島で毎日採集をした結果です。
例年の通り、黒く塗りつぶされているところが「出現を確認した(採集した)」ことを示しています。何も塗りつぶされて無い日は、行ったけどなにも採れなかった日か、そもそも採集に行けなかった日です。 9月中、江の島では合計11種類のクラゲの出現を確認することができました。2020年は 31種類、2021年は 25種類だったので、過去 2年と比べると、今年は圧倒的に種数が少なかったことになります。それでは、今年のデータを詳しく見ていきましょう。

まずは、各クラゲたちの「出現回数」に注目です。いつものように、出現回数ごとに上位種をランキング形式で発表し・・・たかったのですが、1位のエイレネクラゲ( 21回)を除いて、他は出現回数が 1~ 4回とそんなに差もなくとんとん・・・もはやランキング形式にする意味もあまりないので、とりあえずエイレネクラゲだけのご紹介です。

和名:エイレネクラゲ
学名:Eirene menoni
分類:ヒドロ虫綱 軟クラゲ目 マツバクラゲ科
2020年・2021年と、9月の出現数 1位の座を守り抜き、見事 3連覇達成です。今年もほぼ毎日その姿をみせてくれました。手書き解説板にもよく書かせていただいたのですが、本種は 1953年にオーストラリアで採集された標本を元に記載されたクラゲです。そんなに離れたところで記載されたクラゲが日本でも出現するなんて、なんだか面白いですよね。江の島では夏から秋、長い時で 12月まで出現します。時折大量に出現して、漁港の水面がぽこぽこと波立っていることもあります。きょうもそれなりに雨が降っていましたが、たくさんいました。

さて、今年はこのエイレネクラゲが圧倒的に多く、他のクラゲはほとんど出現しない(出ても 1~ 4回)という結果になりました。それでは、過去 2年ともう少し細かく見比べていきましょう。

20年、21年共に、出現した回数が多かったのはエイレネクラゲとカラカサクラゲでした。エイレネクラゲは今年もたくさん出現したので、特に変化無し。やはり夏の代表種です。
気になるのはカラカサクラゲ。本種は一年を通して採集できる種ですが、夏から秋にかけて、毎年網に入る回数が増えてくる・・・はずだったのですが、今年の出現回数はなんと 2回。過去 2年とも 20回以上採れているので、明らかに変化が見られます。例年に比べて少ないといってもいいのではないでしょうか。また、ヒトツクラゲ、カブトクラゲ、二ホンベニクラゲ、エダクラゲなど、過去 2年出現回数が多かった他のクラゲたちも、今年は出て 1~ 2回でした。

ではなぜ今年はこのような結果となったのでしょうか。
多分いろいろある中でとりあえず考えられる原因は、 9月中立て続けに来た「台風( 14・15号)」です。クラゲの出現回数や種類数が過去 2年と比べて少なかったのは、そもそも採集に行けなかった日が何日かあることが原因の一つでもありますが、台風で海が荒れてしまったことがクラゲの出現に大きく影響していると考えられます。台風による大雨で河川からの淡水が漁港に流れ込み、強風で大きくかき混ぜられ、まるでコーヒー牛乳のような海でした・・・。これによって、台風の日の前後はクラゲがかなり少なく、採集に行ったとしても、他のプランクトン(いつでもいる夜光虫とか)を含めて生き物が全然いない!何もとれなかった日もありました。クラゲは体が柔らかく、衝撃に弱い生き物です。ゴミとぶつかってボロボロになってしまったり、突然の塩分変化に耐えきれなかったのかもしれません。特にカラカサクラゲは生活史の中にポリプ期をもたず、外洋で生活しているクラゲです。おそらく、沖の方でもかなり影響を受けたのではないでしょうか。

また興味深いことに、夏から秋にかけて関東にもやってくる「季節来遊魚」をよく採集している先輩トリーターから、今年は魚の出現時期が遅いし少ない気がするという情報をいただきました。あくまで体感でとのことですが、毎年実際に海を見ている人がいうんだから、なんとなく説得力があります。今年の 9月は沿岸部に全体的に生き物が少なかった・・・のか?全部妄想の域を超えませんし、実際のところ何が原因だったのかを一つに絞ることは難しいのですが、このように積み重ねたデータがあるからこそ、あれこれ考えることができるのです。
気温、水温、塩分、pH、潮汐、他の生物(特に餌や天敵となる生き物)の量などなど・・・条件を足して視野を広げていくと、考察の幅もぐっと広がります。

例えば、これは採集地点で測定している表層の水温です。20年、21年、22年の 9月のデータをグラフにしてみました。この結果、みなさんにはどう見えますか?これがクラゲの出現にどう関係しているのでしょうか。・・・海は本当に色々なもの同士が繋がっています。なんだか壮大な話になってしまいましたが、データを積み重ねていくと、9月の結果だけでもたくさんのことを考えることができて面白いのです。

毎年、この内容で日誌を書くのが楽しみになっています。今年の 9月はそんなに多くの種類が採れませんでしたが、10月、11月はどうでしょう。そして来年はいったいどんな海になるのでしょう。「季節のクラゲ」を考えることが、ずっと飽きずに私の楽しみです。クラゲサイエンスにある(ほぼ)毎日採集水槽では、その日に採れたクラゲを日替わりで展示しています。ぜひ、私たちと一緒に季節のクラゲを感じてください。

クラゲサイエンス

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