2023年07月15日
トリーター:杉村

魚のけがって治るんですよ!! その2 Part1

水族館で飼育している魚たちも飼育をしているとけがや病気になります。
ときどきですが飼育している水槽の中で、魚同士で喧嘩をしたり、それが元で体に傷を負ってしまったり、ストレスから感染症や寄生虫症になったりしています。
私たちトリーターは日々の日常管理の中で、そういった魚たちのケアをして、再び展示水槽に戻すということをしています。
今回は、その一例を紹介しようと思います。

・・・というくだりで始まる、トリーター日誌を2019年のマツカサウオのトリーター日誌で書かせてもらいました。
今回は、“その2”と称して新たな展示水槽の事故(けが)から見事にカムバックした生物「ムツ」を紹介します。

今回のトリーター日誌で紹介している「ムツ」は、すでにけがも完治して、展示水槽で元気に泳いでいます。
※深海Ⅰの標本コーナーの隣の水槽で、展示している「ムツ」のうちの 1匹で、右体側に他箇所とは違うようすの再生したウロコがあるので、良く見てみると分かりますよ。

今回紹介する「ムツ」は、相模湾の定置網で採集されてトリーターによって水族館にやってきました。


「ムツ」という魚は、捕獲の際に特に網などを使うと体が擦れやすく擦過傷(すり傷)になりやすく、水族館にやって来てもなかなか生かすのが難しい魚の 1つです。網などを使わずに釣ると擦過傷になりにくいです。稀に捕獲がうまくいくと擦過傷が軽くて済む場合があります。
そんな個体は、バックヤードの水槽で大事にケアをしながら、餌を食べさせて水槽に慣らしていきます。


バックヤードで1か月以上かけて水槽や水温、冷凍の餌料に慣れさせて、やっとの思いで展示水槽に展示しました。
今年の 1月29日のことでした。
展示水槽の水温や水質に慣らすために水タモ(ターポリン生地の特殊加工した水族館用のタモ)に入れていたところ、しばらくしてようすを見に行くと・・・自分で水タモから水槽内に出ており、しかも・・・なんと!! 背部と腹部がざっくりと何かに咬まれた跡が・・・しかも力なく泳いでいるではありませんか。
何で・・・と、ふと見ると口を開けたミ・ゾ・レ・ウ・ツ・ボが!! もしや・・・。
※まあ、ウツボはいつも口を開けているんですけどね・・・実際に見たわけではないので、ホントのところは分かりません。

誰に咬まれたかは後にして、すぐさまバックヤードの治療用水槽にとんぼ返りです。
治療水槽でようすを見ると、背部の肉は見え、腹部の肛門部の辺りがざっくりと割かれている状態でした。
正直、ダメかと思いました。。。
ああ・・・この数ヵ月の努力が一瞬で、と思うと同時に「ムツよ、ごめん・・・」。
人もそうですが、魚も大きな事故などが起こると稀にショック状態になることがありますが、今回は幸い事故のショックはさほど大きくはなかったようすで、水槽内では力が弱いながらも懸命に泳いでいるので、まずは治療用水槽で落ち着かせてようすをみることにしました。
開館前 1時間ほどの出来事でした。

私はこの日、1日マジメに泣きそうでした。(´;ω;`)
「本当にムツよ、、、すまなかった。」

しばらく後に、治療用水槽を見ると大分落ち着いたようすで遊泳していたので、まだ望みはあるかもと思い、処置をはじめました。
ここからが、私と「ムツ」のカムバックへの物語の始まりです。

ここからは、ちょっと長くなりそうなので、2回くらいに分けてお伝えできればと思います。
今回はpart1としてここまで。
次回Part2では、治療のようすや怪我が治っていくようすなどを紹介しようと思います。

事故当日と現在のようすを比べてみてください。

現在のようす(展示中)現在のようす(展示中)

画像の黄色は、合成抗菌剤の薬浴中の黄色です。

事後直後のようす事後直後のようす

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