2025年10月05日
トリーター:山本

憧れのウミウシ

「海面を漂って生活するウミウシ」。これを聞くと、生き物好きの方ならあの有名な「アオミノウミウシ」や「タイヘイヨウアオミノウミウシ」の仲間を真っ先に思い浮かべるかもしれませんね。実は… まだいるんです、第 3(?)の漂い系ウミウシが…。
私もそのウミウシの存在を知ったのはここ数年のことです。初めてアオミノウミウシを飼育することになったとき、何もわからない私はひたすらアオミノウミウシについて調べていました。そのとき、とある論文の中に出てきたこの生き物。

引用:Bieri, R. 1966. Feeding preferences and rates of the snail, Ianthina prolongata, the barnacle, Lepas anserifera, the nudibranchs, Glaucus atlanticus and Fiona pinnata, and the food web in the marine neuston.引用:Bieri, R. 1966. Feeding preferences and rates of the snail, Ianthina prolongata, the barnacle, Lepas anserifera, the nudibranchs, Glaucus atlanticus and Fiona pinnata, and the food web in the marine neuston.

Fiona …? ウミウシっぽいけどなんだ …? 論文内の図では海面にいることになっているけど、アオミノたちの他にそんなウミウシいるの??
さらによく調べてみると、どうやらこのウミウシは「ヒダミノウミウシ」という和名が付いており、世界中の海で見られ、アオミノウミウシなどのように自らが浮くのではなく、流木や軽石、ギンカクラゲやカツオノカンムリの漂泳するクラゲ類など、海面を漂う浮遊物に付着して生活するのだとか。青色のクラゲを食べると背中のみの(背側突起)が鮮やかな青色になるらしく、とてもかっこいいです。全然知らなかった… そんなウミウシがいたのか… と、衝撃を受けたことを今でも覚えています。それからというもの、私の中でヒダミノウミウシはなんだか特別な生き物となっており、出会ってみたい生き物の一つとなりました。
それから 4年ほどの歳月がたち、ついにこの前!見つけました!!ヒダミノウミウシ!!!

その日はとてもいい風が吹いており、ギンカクラゲやカツオノエボシ、アオミノウミウシなどが砂浜に打ち上っていました。いつも砂浜を歩くときはなんとなくヒダミノウミウシも探しているのですが、

「そうそう、こういう日にこんな感じでエボシガイが付いてる木とかにいるんだよなーきっと」と、しゃがんで見てみると…

!!! いる???!!! 漂着した竹の節のところに偶然海水が残っており、そこにウミウシがいるじゃないですか。

いや、よく見たら近くにめちゃめちゃたくさんいる…! 水から出ていたのもあって全然気にしていなかったのですが、たくさんのウミウシがもぞもぞと動いています。

傷つけないように葉っぱでそっとすくいます。この時点ではまだ憧れのヒダミノウミウシかどうかわからず、興奮を抑えながら水族館へと持ち帰り、顕微鏡で観察してみました。すると…

ヒダミノウミウシの特徴である「みの(背側突起)のひだ」を確認することができました。Fiona 属は(※今のところ)1種なので、ヒダミノウミウシ確定! ついに、憧れの生き物と遭遇です! うれしい!

一見、他の鮮やかなウミウシたちと比べると地味な感じもしますが、私にとってはきらきらのウミウシ。夢中になって写真を撮りました。
今回採集されたヒダミノウミウシは、みのが青色をしていないため、恐らく同じように竹についていたエボシガイの仲間(甲殻類)を食べて生活していたのでしょう。正直もっと青いと思っていたので、きっとこれまで何度も何度も見逃してきたんだろうなーと思います。でも、もうどんな感じで見つければいいのかが分かりました! これからは見逃さないように砂浜を歩きたいと思います。

さて、そんな運命的な出会いを経て、本日からクラゲサイエンスでヒダミノウミウシの展示が始まります。初めてで分からないことしかありませんが、何とかこちらが用意したエサも食べてくれており、どうにか飼育することができそうです。なんと、卵も得ることができたのですが、そのあたりの詳しい話はまたの機会にしようと思います。
海を漂いながら世界中に広がる「旅するウミウシ」を、ぜひこの機会にご覧ください!

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