2026年03月06日
トリーター:松田

ドキドキ、お聴きします

気づけば3月、卒業シーズンになりました。 そしてその次は4月。 入社や入学、クラス替えなど、ドキドキの新たな出会いの季節ですね。
私はと言えば、この文を書いているときに「クラス替え」という言葉が一番に出てきて、もう社会人3年目なのにまだ学生の心が抜けてないのか…、と自分にドキドキしてしまっています、獣医師の松田です。

さて、以前のトリーター日誌 では心臓のドキドキを可視化する心電図についてお話ししました。 今回はドキドキを耳で聞く、「聴診」についてのお話です。

聴診は、みなさんにとってもなじみ深いのではないでしょうか。 お医者さんが聴診器を胸に当てて、もしもしするアレです。
聴診にも、肺や気管などで空気の通る音を聞く「呼吸音」の検査と、心臓の動いている音を聞く「心音」の検査があります。 他にも消化管の動く音を聞く場合もあったりするのですが、今回は「心音」についてフォーカスします。

最近の “えのすい” ではオットセイの心音の聴診もよくおこなっています。 今回はミナミアメリカオットセイの「ライラ」の聴診のようすをご紹介。 ちなみに心電図の測定でも「ライラ」に協力してもらっています。 「ライラ」いつもありがとう…!

写真のように、部屋の扉に手をつけて立ってもらって柵の間から聴診器を当てます。
当てる位置は、胸の中心からやや左、高さはヒトに当てはめると脇の下あたりでしょうか。 上手く当てることができていれば、大きくはないのですがしっかりと心音が聞こえてきます。

ではそもそも心音は何から発せられる音なのかと言うと、主に心臓の「弁」が閉じる時の音です。
哺乳類の心臓は左右の心房と心室の4つの部屋に分かれています。 心臓は血液を全身に行きわたらせるためのポンプの役割をしており、血液の流れは、心臓に入る静脈 → 心房 → 心室 → 動脈と一定に保たれています。 その流れが逆流しないようにしているのが、心房と心室、心室と動脈の間にある「弁」です。
よく心音を「ドックン」と表現することが多いですが、弁の動きをイメージすると「ズッタッ」の方がイメージしやすいと個人的に思っています。 心房と心室の間の弁が閉まる時の「ズッ」、心室と動脈の間の弁が閉まる時の「タッ」。 これが規則的に繰り返されているのが心音です。
弁や心臓の筋肉に異常があると、心臓の中での血液の流れが乱れてしまいます。 そうなると心雑音と言って、「ズッタッ」の音の中にふつうなら聴こえない音が混じり、「ズズータッ」とか「ズーザー」という風に聞こえてくることがあります。 この雑音を評価することで、心臓がどう悪いかやどれくらい悪いのかを評価することができます。
また、心電図の検査では血液の流れや弁の動きは直接評価することができないので、聴診と組み合わせることでより確実な検査ができるようになります。
本来なら聴診器を当てる場所を変えて、集中して聞きたい弁の音や雑音が強い場所を探すこともできるのですが、私はまだ小さく聞こえてくる音を聞き取るので精一杯で、聞き分けができるレベルには到達できていません…。 まだまだ練習が必要です。

小難しい説明が長くなってしまいましたが、ここまで読んでくれたあなたに、特別に「ライラ」の心音を公開しちゃいます!


「ライラ」の心音

前半はゆっくりの「ズッタッ、ズッタッ」のリズムなのですが、最後の方に一度呼吸の音を挟んだ後は、前半よりも早い「ズタ、ズタ」のリズムになっています。 これは呼吸によって心拍数が増減する生理的な反応が表れたものです。

おそらく本邦初公開のミナミアメリカオットセイの心音、いかがだったでしょうか。
実は先ほどの写真でも使っていた聴診器は、聞いている音を録音できる優れもので、今回はその録音をお聞きいただきました。
最近はこのような便利なデバイスも登場し、聴覚という今まで保存することができなかったデータもこうやって記録しておけるようになりました。
心電図の時にも話しましたが、水族館でくらす生き物の心臓についてのデータはまだまだ不足しています。 そんな中でもこうしてデータを集めていけば、異常をいち早く検知して健康寿命を延ばせるようになるはずです。
「ライラ」のドキドキが、将来誰かの命を救うかもしれない。 そんな未来を想像するとドキドキしてきますね。

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