
みなさん こんにちは、鈴木です。
崎山館長とともに、タイで開催された国際ワークショップ「International Workshop on Jellyfish and Marine Organisms Display in Aquarium and Museum」(7月6日)と、タイランド湾各地でのクラゲ類調査(7月7日~7月11日)に参加してきました。
今回お世話になったのは、タイのブラパ大学と、大学付属のバンセンアクアリウムのみなさんです。
新江ノ島水族館とブラパ大学は、学術交流や飼育に関する共同研究について MOU(Memorandum of Understanding:基本合意・覚書)を結んでおり、10年以上にわたって交流を続けています。 これまでにも、私たちがタイを訪れてクラゲ類の調査をおこなったり、ブラパ大学のみなさんが新江ノ島水族館を訪れたりと、さまざまな交流を重ねてきました。
実は、私も崎山館長もクラゲを担当していたのは遠い昔・・。
ただし、今回はとても心強いメンバーが一緒です。
日本からは、東北エプソンアクアリウムかもすい(以下、加茂水族館)、愛媛大学、東海大学、JAMSTECなどから、クラゲを担当する専門家のみなさんが参加。 さらに、Singapore Oceanarium(シンガポール)、Sea Life Bangkok Ocean World(タイ)の飼育員も参加し、クラゲの飼育や研究に携わるメンバーがタイに集まりました。
最近のクラゲ事情については、専門家のみなさんに教えていただくことばかりでした。
ブラパ大学でおこなわれた国際ワークショップ「International Workshop on Jellyfish and Marine Organisms Display in Aquarium and Museum」に参加しました。
朝8時30分から夕方5時まで、プログラムがびっしりです。
ブラパ大学の研究者やバンセンアクアリウムの飼育員のみなさんによる発表に続き、私たちゲストスピーカーの講演時間となりました。
我々えのすいは最後の出番です。
まず崎山館長から、新江ノ島水族館を含む 江ノ島マリンコーポレーションが運営する3園館について、映像を交えて紹介しました。
そして、クラゲやサンゴなど刺胞動物に関する発表が続くなか、私は一人、魚の治療やトリートメントについてお話しさせていただきました。
持ち時間は二人合わせて1時間。残りの時間は私が担当です。たっぷりと、つたない英語でお話しさせていただきました。
バンセンアクアリウムの飼育員のみなさんも参加していたため、反応はとてもよく、熱心にスマートフォンでスライドを撮影してくれていたのが印象的でした。
どうにか役目は果たせたようで、ほっとしました。
水族館における飼育技術や研究のレベルも、年々高くなっているとのこと。
今回の交流を通して、技術そのものはもちろんですが、特に「もっと良くしたい」「もっと学びたい」という向上心や、新しいことを積極的に吸収しようとする姿勢には、むしろこちらが教わることが多いと感じました。
国や施設が違っても、「生き物をより良い状態で飼育し、その魅力を伝えたい」という思いは同じです。
最後にブラパ大学の所長よりゲストスピーカー一人一人に贈り物が手渡され、全員で記念撮影をしました。
お互いの経験や技術を共有できる、とても貴重な時間となりました。
本日から、いよいよクラゲの調査とサンプリングです。
採集道具を車に積み込み、ブラパ大学、バンセンアクアリウムのメンバーとともに出発します。 最初の調査地点は、ブラパ大学からやや北上したところにある、バンパコン川の河口です。
早速、大型の根口クラゲを発見! カワイトヒキクラゲです。
以前、水族館で繁殖個体の姿を見たことはありますが、天然の個体はやはり立派です。
その後も、次々とクラゲが流れてきます。
かなりの数を確認することができ、サンプリングも順調に進みました。
浮き桟橋の上を拠点とし、それぞれの研究目的にあわせてサンプリングをおこないます。
目の細かいネットを使った採集では、プーキアテマリクラゲ属の一種やマメヨドクラゲ属の一種など、小型のクラゲも採集することができました。
このポイントは、過去の調査ではあまり採集成績が良くなかったと聞いていましたが、この日は大当たりだったようです。
大型のクラゲは ブラパ大学の飼育施設へ持ち帰って収容し、ポリプの採取をおこないます。
採集された中には、なにやら私たちが知るカワイトヒキクラゲとは、少し模様の異なる個体も見られました。 果たして同じ種類なのか、それとも別の種類なのか・・。
初日からみんなでわくわく、ざわざわとしていました。
調査初日からとてもよい滑り出しとなりました。
早朝から、次の目的地であるプラチュワップキーリーカンのサム・ロイ・ヨット・ビーチへ向けて出発しました。 ブラパ大学のあるチョンブリーからは、車で約5時間の長距離移動です。
今回は宿も移動するため、各自の荷物に加えて採集道具や飼育用品などもあり、なかなかの物量です・・。 大学の車に加え、あらかじめドライバー付きでチャーターしていたミニバスにも荷物を積み込み、2台で移動しました。
タイの街並みを眺めながら車に揺られること約5時間。 到着したサム・ロイ・ヨット・ビーチは、まさに南国のビーチです。 観光客の姿もちらほら見られる中、さっそくクラゲの採集を開始しました。
このビーチはとても遠浅で、この日は潮が引いていたこともあり、岸から 20m ほど沖へ出てもまだ足がつきます。 ネットを持ってそのまま海へ入り、採集開始です。
さらに、自由に使用できるカヌーもお借りして、少し沖まで出て採集を試みました。
ここでは、カブトクラゲ属の一種が無数に確認できました。
とにかくものすごい数で、ネットを一度すくうだけでも、かなりの数が入ってきます。
採集方法は、えのすいではおなじみの「毎日クラゲ採集」と同じ要領です。 ネットを海の中に入れてひき、入ったものをバケツへ。 これを繰り返していきます。
ちなみに水温は 30℃を超えており、海の中はほとんどお風呂のようです・・。
バケツにある程度クラゲを採集したところで、宿の部屋へ戻ってソーティング(仕分け作業)をおこないます。
ここには大学のような飼育設備はありません。 大量に採集できたカブトクラゲ属の一種は、残念ながら長期間の蓄養が難しいため、日本への輸送はあきらめ、採集物の中から小型のクラゲを探していきます。
じっくり探してみると、エイレネエクラゲ属の一種、プーキアテマリクラゲ属の一種、エダクラゲ属の一種などを確認することができました。

プーキアテマリクラゲ属の一種 Pukia sp.

エイレネクラゲ属の一種 Eirene sp.
これらの小型クラゲについては、日本への輸送を目指して、宿の部屋で蓄養を試みます。
そして、この日の採集はこれで終わりではありません。
夜には近くの漁港へ移動し、再びクラゲの採集をおこないました。
ここではヒドロ虫のクラゲが数個体採集できた程度でしたが、昼間とはまた違った雰囲気の中でおこなう夜の採集は、何が見つかるかわからないわくわく感があります。
さらに、走光性のある立方クラゲ類を狙って、加茂水族館のメンバーにより、集魚灯を使った採集も試みました。 残念ながら、目的のクラゲを見つけることはできませんでしたが、朝から夜まで、まさにクラゲ採集づくしの一日となりました。
この日の午前中は、カオ・サムローイ・ヨート国立公園の雄大な湿地帯を見学しました。
どこまでも広がる湿地と、その向こうにそびえる山々。 まるでファンタジーの世界に入り込んだような、想像を超える景色に圧倒されました。
東南アジアの豊かな自然を肌で感じることができ、大変貴重な経験となりました。
昼頃からは、クラゲを探しながら宿周辺の各所を回り、夕方からバーン・プーの運河にある漁港へ移動して、クラゲ採集をおこないました。
そしてここで、個人的にタイでぜひ見てみたかった生き物に出会うことができました。
テッポウウオの仲間です。
タイに生息していることは知っていましたが、自然の中を泳ぐテッポウウオを実際に見るのは初めてでした。 実際に泳ぐ姿を目の当たりにし、改めてここが東南アジアであることを実感しました(笑)。
それにしても、なかなか立派な個体です。 心なしか、体色もきれいな気がします。
テッポウウオというと、個人的にはマングローブなどの自然豊かな環境にいるイメージが強かったのですが、人工物に囲まれた、ごく普通の漁港にも生息していることには驚きました。
堤防の上からネットを海中に入れて採集していきますが、この日はヤコウチュウ類が非常に多く、目的のクラゲを探し出すのに苦労しました。
ここでちょっと一休み。
採集の途中、現地のメンバーがタイのトロピカルフルーツを振る舞ってくれました。
まずは、日本でも昔、マンゴスチン味のガムが一時期流行ったこともあり、名前は知っていたマンゴスチン。
ただ、生のものを見るのは今回が初めてです。 実際に食べてみると、これは間違いないおいしさです。
けばけばした見た目のライチのようなフルーツは、ランブータン。
味はライチに似ていますが、もう少しさっぱりしています。 僕はライチより好きです。
そして、一見するとジャガイモ? にも見えるこちらはロンガン。
食感はライチのようですが、ほどよい酸味もあり、大変おいしいです。
最後は、果物の王様、ドリアン。
現地のみなさんは「臭い、臭い」と苦笑いしながら振る舞ってくれましたが、私は全く気にならず・・。確かに独特のにおいはありますが、嫌な臭みは一切感じません。
さわやかでほどよい甘みがあり、食感も唯一無二。
初めて食べましたが、ものすごくおいしい! と夢中になってむしゃむしゃ食べていたところ、そのようすがおもしろかったのか、現地のメンバーに笑いながら写真を撮られました。
さすが南国、フルーツの種類が豊富で、しかも安い。これだけたくさん買っても、日本円でワンコインでおつりがきます。 日本で同じものをそろえたら、おそらく 10倍近くはするのではないでしょうか。
タイならではの味覚もたっぷり楽しませていただきました。
夕方まで採集した後、夕食を挟み、夜にも再び同じ場所で採集です。
カブトクラゲ属の一種、エイレネエクラゲ属の一種、プーキアテマリクラゲ属の一種、エダクラゲ属の一種などを採集することができました。
早いもので、本日は調査最終日です。
この日は、チャアムにあるブラパ大学付属の臨海実験所「チャアム海洋科学研究所」へ移動しました。
こちらの施設では、魚類やサンゴ類などの海洋生物の繁殖研究をはじめ、海洋に関するさまざまな研究がおこなわれています。
施設内には水槽がずらりと並び、クマノミやスズメダイの仲間などが飼育されていました。 これらの魚たちについても、飼育・繁殖の研究をおこなっているとのことです。
そして、私たちが訪れるのにあわせて、あらかじめクラゲを採集し、蓄養してくれていました。
今回用意してくれていたのは、ミノクラゲ、インドネシアンシーネットル、ブラウンドットジェリーです。
まず、ミノクラゲ。
とても立派な個体ですが、ややサイズが大きく、この大きさでは日本までの輸送は難しそうです。
ただ、ミノクラゲは今回ぜひ日本で展示したいと考えていたクラゲの一つ。
そこで、後日、輸送に適したサイズの個体が採集できたら送っていただくことを約束しました。
インドネシアンシーネットルは、残念ながら少しダメージが大きそうです。
ブラウンドットジェリーはかなり状態が良さそうです。
サイズも立派で、日本で待つ担当トリーターからも「ぜひ迎え入れたい」とのことでしたので、輸送することにしました。
現地のホームセンターで発泡スチロール箱を購入し、さっそく輸送準備に取り掛かります。1個体ずつ丁寧にパッキングし、高温になりすぎないよう氷を入れて輸送準備は完了。 あとは、無事に日本まで到着してくれることを祈るばかりです・・。

マメヨドクラゲ属の一種 Blackfordia sp.
その後は、研究所の目の前にある海でも採集をおこないました。
そして、ここがかなりの当たりでした。 これまでの調査で確認してきたクラゲがほぼすべて採集できたうえに、さらに複数種のクラゲを確認することができました。
「もしかして、ここだけでよかったのでは・・」とは思っても、もちろん誰も言いません。あくまで結果ですので(笑)。
こちらの研究所は、研究設備も充実しています。
水族館のメンバーは主に採集した生物のソーティングをおこない、専門家の先生方は顕微鏡をのぞきながら、それぞれの専門分野の研究を進めています。
クラゲの専門家がこれだけ集まり、それぞれの視点から同じ生き物を見ている光景は、なかなか見ることができません。 そこへ現地の研究者のみなさんも加わり、自然とクラゲ談議が始まります。 こうしたやり取りを聞いているだけでも、とても勉強になりました。 非常に豪華な空間です。
ソーティングを終え、これですべての調査日程が終了です。
臨海実験所のみなさん、大変お世話になりました。
翌日は早朝、まだ暗いうちから空港へ向けて出発します。
日本へ向けて送り出したクラゲたちが無事に到着してくれることを祈りながら、タイでの調査を終えました。
今回、私自身は初めてのタイで、さらにクラゲについては非常に未熟です。
それでも、同行してくださった専門家のみなさん、ブラパ大学やバンセンアクアリウムのみなさんをはじめ、多くの方々にご協力いただき、無事にすべての日程を終えることができました。 本当にありがとうございました。
そして今回の滞在を通して、タイの食や人、文化にもたくさん触れることができました。 どれも私にはとても肌に合い、すっかりタイが大好きになりました。
【後日談】
帰国から約2週間後、タイからうれしい連絡が入りました。 輸送にちょうどよいサイズのミノクラゲが採れたとのこと。
そこで、加茂水族館と新江ノ島水族館へ2個体ずつ輸送していただくことになり、無事に日本へやってきました。
そして現在も、えのすいで展示を続けています。
今回の調査では、このほかにも本文でご紹介したブラウンドットジェリーをはじめ、エイレネエクラゲ属の一種、プーキアテマリクラゲ属の一種(展示終了)、マメヨドクラゲ属の一種などを日本へ輸送し、展示することができました。
タイの海で実際に出会い、現地のみなさん、そして日本やシンガポールから参加した専門家のみなさんと一緒に採集したクラゲたちです。
ぜひ、えのすいでじっくりとご覧ください。
[新しい生き物たち]
本活動の一部は、JSPS科研費 23KK0114(研究代表者:北里大学 三宅 裕志氏)の助成を受けたものです。