2018年12月29日
トリーター:岩崎

相模湾旬の魚図鑑 その12 トラフグ

河豚は食いたし命は惜しし
ことわざになるほど、フグの仲間はおいしさと猛毒があることで有名です。
その中でもトラフグ(Takifugu rubripes)は、70cm以上にまで成長する大きさと、群を抜く味の良さから、“フグの王様”といった存在の魚です。
トラフグは、本州から四国、九州までの、水深 100mより浅い沿岸域に生息しています。
体の側面に白い縁のある大きな黒い斑紋と、その後ろに小さな斑紋がいくつか並んでいること、尻びれが白っぽことなどの特徴で、他のフグと見分けることができます。

相模湾では定置網や延縄漁などで漁獲され、種苗放流の成果で、近年は漁獲量が増えているそうです。
ペンチのような形の強力な歯で、硬い貝や甲殻類などをバリバリと砕いて食べてしまいます。
うっかり咬まれると、大けがをしてしまうので、活きたフグを取扱う際には、十分注意してください。

超がつくほど弾力があってさっぱりとしたフグの身は、いつ食べてもおいしいのですが、鍋物や熱燗が恋しくなる冬が旬とされています。
咬み切れないほどコリコリとした食感の刺身、プリプリほくほくと弾力のある食感の鍋物、干したヒレをあぶったものを熱燗に入れたヒレ酒。
超高級魚のトラフグですが、願わくは一冬に一度、いや、数年に一度でもいいのでたっぷりと魅力を堪能してみたいものです。

有毒フグの仲間は、主に呼吸をコントロールする神経を麻痺させるテトロドトキシンという猛毒を蓄えています。
食べ物由来の毒なので、個体差がありますが、トラフグは卵巣や肝臓、腸管に猛毒があります。
毒がある部位を食べてしまうと、呼吸困難のために命を落としてしまうことがあるので、注意が必要です。
フグをさばいて食材として提供するには、都道府県が定めた条例に基づいておこなわれる試験に合格して、フグ調理師免許の取得が必要です。
毒のある部位がわかっているからといって、フグ調理師免許がない方は、絶対に自分でさばいて食べないようにしてください。

ところで、有毒フグの仲間は、ほとんどの種類で卵巣に猛毒を蓄えているのですが、いったいなぜでしょうか?
それは、卵に毒を持たせるためではないか?ということが、最近の研究で確かめられました。
有毒の親フグが産んだ卵を他の魚が食べると、すぐに卵が吐き出されます。
その卵から生まれた仔魚も、やはり食べられてもすぐに吐き出されます。
しかし、同じ種類のフグでも、飼育下で無毒になるように育てられた親フグが産んだ卵や、ふ化した仔魚は、吐き出されることはなく、他の魚にそのまま食べられてしまうことが、実験で確認されたのです。
有毒の親フグが産んだ卵とふ化した仔魚は、表面を親から譲り受けた毒で覆われているので、食べた魚が毒を感じとって吐き出すようなのです。
子どもたちの生存に有利なように、自ら持つ毒を譲り渡す有毒フグの繁殖戦略、わが子を想う愛には驚かされます。

“えのすい”では、相模湾大水槽でトラフグを展示しています。
流れにまかせてのんびり泳いだり、水槽の底でごろりと転がったり。
マイペースな感じのトラフグたち見ていると、その愛嬌たっぷりな姿に、思わず笑みがこぼれてしまいます。
有毒で強力な歯を持ち、怒ると膨れることもできるトラフグは、たくさんの種類の中でもかなり上位に君臨している魚なのでしょう。
愛嬌と余裕たっぷりな“フグの王様”トラフグ。
相模湾大水槽でご覧ください。

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