2023年06月25日
トリーター:山本

第10回 国際ヒドロ虫学会 in ノルウェーその2

2023年05月29日 第10回 国際ヒドロ虫学会 in ノルウェーその1
2023年06月09日 第10回 国際ヒドロ虫学会 in ノルウェー 番外編
続きです。11日と 12日はフィールドワーク! みんなでベルゲン大学が所有している臨海実験所へ行き、順番に船に乗って採集をしたり、顕微鏡をのぞいて種同定をしたり、各々の分野で現地のクラゲたちをとことん調べます。普段私たちがほとんどしないような、組織を染色して刺胞を詳しくみている人や、海底の岩を持ってきて、そこについてるポリプを観察している人もいて、とても新鮮でした。
分からないクラゲがいても、それぞれの分類に専門家がいて、どんなクラゲを持って行っても誰かが「ああ、これは○○の仲間だね」とすぐに教えてくれます。こんなに心強いことはありません。
私たちは 12日に乗船採集をしました。2地点で採集を行い、たくさんのクラゲを採集しました。私たちクラゲ担当的には、フィヨルドと聞いたら深海クラゲとして有名な「クロカムリクラゲ」を思い浮かべます。さて採れるかな…

プランクトンネットで採集したものをみんなで観察します。

いました…! 小さい! かわいい! 本種は日本でも外洋に出れば普通に見られる種ですが、ここフィヨルドで見られたことが熱い!! 感動です。

白っぽく、まだエフィラの状態の個体もいました。こんな形なんだ!
それ以外でも、船から海をのぞくと、たくさんのクラゲが次々と流れてきて、「Nanomia(シダレザクラクラゲ属)だ!」とか「Beroe(ウリクラゲ属)だ!」とか、見えた種を口にしながらずっとみんなで水面を眺めていました。

住む場所が遠く離れていても、クラゲで同じくらいテンションが上がれる、なんというか、とてもいい時間でした。
観察会の雰囲気はこんな感じです。

2日間の採集で、種同定できたのはこちら。

結果、ヒドロ虫綱 36種、鉢虫綱 3種、有触手綱 2種、無触手綱 2種の、計 43種を採集&同定することができました。ほとんど和名が付いているクラゲがいない…! と、思いきや、意外と日本でも出現するクラゲがたくさんいることに驚きました。特に、シミコクラゲやツリガネクラゲ、ヒドロ虫ではないですが、キタユウレイクラゲやウリクラゲなど馴染みある種もそれなりに見ることができ、クラゲって世界中にいるんだなーと、改めてクラゲという生き物の凄さを感じました。

学会のプログラム以外でも、滞在中せっかくなので毎日クラゲ採集をしていました。ベルゲンは今の時期だと日の入りがとても遅く、22時になっても夕方のように明るかったです。おかげで体内時計はばっちり狂いました。

これは22時の空。こんなに明るいので、毎日プログラムが終了した後でも近くの漁港でクラゲ採集をすることができました。

皆であれだこだと言いながら、現地のクラゲを観察です。たった一週間でしたが、毎日採集とフィールドワークの結果をあわせて考えると、この時期のベルゲンではどんなクラゲが出現するのかが何となくわかったような気がします。日本でも見た事あるようなクラゲもいれば、和名がなく、図鑑でも全く見た事無いようなクラゲもいてとてもとても楽しかったです。特に気に入った種をピックアップして紹介していきますね。

Halopsis ocellata(和名なし)
“えのすい”でも展示しているナデシコクラゲと近い仲間です。サイズは 5㎝ほどで、ヒドロ虫類の中では大型といえます。

Margelopsis hartlaubii(和名なし)
丸っこくてかわいらしい。傘の表面に刺胞の塊があることが特徴です。

Nanomia cara(シダレザクラクラゲ属の一種)
私が大好きなシダレザクラクラゲ(2020年11月25日 枝垂桜クラゲ)の仲間です。気胞体や泳鐘、栄養部の形がそれぞれ違っており、すぐに見分けることができます。拡大すると鮮やかなオレンジがとてもきれいです。

Ectopleura larynx(ソトエリクラゲ属の一種)
“えのすい”でも冬ごろに展示するキタクダウミヒドラと近い仲間で、海中に咲く花のような美しいヒドロ虫です。

Leuckartiara octona(エボシクラゲ)
日本でも出現するクラゲで、“えのすい”でもよく展示をしています。が、こちらの個体は 3㎝ほどで巨大で驚きです(当館は大きくても 1cmほど)。本当に同種…なのか…??

Aurelia sp.(ミズクラゲ属の一種)
日本でもおなじみのミズクラゲの仲間。こちらのミズクラゲは傘がやや薄く、ほんのりピンク色をしていました。見慣れたクラゲがいてなんだか安心しました。

クラゲを採っていると「そこで何してるの? 釣り?」と、たくさんの人に声をかけられました。ノルウェーは水産大国でもあり、海に関心がある人が多いのかもしれませんね。
3回に分けて国際ヒドロ虫学会について書いていきましたが、とても書ききれないほどの濃い時間を過ごすことができました。はじめての海外出張でしたが、街を歩いているだけでも綺麗な鳥や変わった形の虫、でっかいナメクジなどなど、全く見た事の無い生き物がたくさんいて、とても刺激になったと共に、飼育員として、改めて「自然で遊ぶこと」の大切さを感じました。この世にはまだ知らない事ばかりです。
本学会の次回の開催地はフランスの予定です。参加できるかどうかはまだわかりませんが、クラゲのことをもっともっと勉強して、世界中に“えのすい”のクラゲの輪を広げられるように、これからも頑張ります!

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