2026年06月10日
トリーター:藤田

ウツボ好きトリーターのウツボの話 29

こんにちは、藤田です。
みなさん、アワウツボとサガミウツボはもうご覧になりましたか?
私たちが新種として報告したウツボです!
たいへん多くの方のご協力のおかげで、ようやく世に出すとこができました!
改めて感謝申しあげます。

この2種が、どのような特徴をもつウツボなのかは、先日の日誌( 2026年04月14日「新種のウツボを報告しました」 )で紹介していますので、まだ見ていない方はぜひチェックしてください!

アワウツボアワウツボ


今回のトリーター日誌では、この研究の背景、と言うほどでもないですが、研究報告に至った裏話を少しお話したいと思います。

まずこのアワウツボとサガミウツボは、何年も前からダイバーや研究者の間では、名前のついていない “謎のウツボ” として認知はされていました。
特にアワウツボは 顎の白い斑点が特徴的で、一度見たら忘れられない顔つきをしています。
私は何かの雑誌に掲載されていた水中写真を見て、当時未記載種だったこのウツボを初めて認識しました。
そして存在は知っていたものの本物を見たことはなく、「ぜひ見てみたいなぁ~」と思っていたところ予想外の出会いがありました。

2021年3月、藤田がまだ1年目の新人トリーターだったころ、相模湾大水槽の潮だまり(タイドプール)にたくさんのアミウツボがくらしていたのですが、そこに混じってこの白い斑紋のある謎のウツボが1匹、普通に展示されていたんです。
当時は「あれ?? この子って未記載種なんじゃ… 普通に混じってるけど… 」と困惑した覚えがあります。
しかし先輩方に聞いてみても反応は薄く、困惑しているうちにいつの間にか展示から姿を消してしまっていました。

アミウツボ(上)とアワウツボ(下)アミウツボ(上)とアワウツボ(下)


あれは気のせいだったのかなぁと薄っすら思い始めていたころ、漁師さんからいつものように「ミゾレウツボが入ったよ」と連絡がありました。
漁港へ受け取りに行くと、ミゾレウツボの他にこの白い斑紋のあるウツボが一緒に入っていたのです。

ここで少し話が逸れますが、実はこの “ミゾレウツボ” がものすごく大事なキーウツボなので、その背景も紹介させてください。
むしろ全ての始まりと言っても過言ではない、思い入れのあるウツボです。

ミゾレウツボミゾレウツボ

私が入社する以前から、相模湾大水槽にはミゾレウツボがいたのですが、実は最初はミゾレウツボではなく、別のウツボに誤同定されており、そのまま展示されていました。
改めて図鑑で調べてみたところ、ミゾレウツボであることが発覚し、ウン年越しに再同定されました。(最初の搬入時に誤同定し、おそらく10年以上そのままでした…)
そしてちょっと調べてみると、当時ミゾレウツボの相模湾での記録はほんの数例しかなく、かなり珍しい存在であることもわかりました。
この個体がどこから搬入されたのかデータをさかのぼり、すぐ目の前の片瀬漁港のアナゴ筒漁を操業する漁師さんのところからやってきた個体であると判明し、「このウツボが入ったら欲しいです」とオーダーした経緯があります。
その後すぐミゾレウツボが連続して入り、「相模湾では意外と普通にいる種なんだな」と感じました。
何回か受け取りに行くことがあり、ミゾレウツボもお馴染みの種と感じられるようになったころ、前項の本研究のきっかけが訪れます。

さて話をアワウツボに戻しまして、漁師さんにミゾレウツボの採集をお願いしたおかげで、ついにこの未記載種との対面が叶いました…!
そして、こうして水族館にやってくる可能性が示されたことで、昔水槽で見たあの個体も気のせいじゃなかったんだな、とようやく確信が持てました。

そして当時、別件の共同研究でウツボの産卵行動観察実験を実施していた大学に、「実はこんなウツボが最近搬入されたんですよ~」と相談したところ、なんと記載論文を執筆する機会があるとのことで、えのすい主導で新種記載をしないかと声をかけていただきました。
えのすいに実物がいたのはアワウツボの方だけですが、同所的に生息している別の未記載種、当時はカナリーモレイと呼ばれていたサガミウツボも併せて記載することになり、いろいろな方に背中を押していただき、2新種の記載に向けて共同研究を進めていくことになりました。

研究の始まりはざっくりこんな感じで、もちろん私が新種のウツボを発見したわけでもなければ、何か特別なことをしたというわけでもないのです。
私自身は「ウツボが好き」という気持ちだけの、知識も技術も経験もまだまだ足りない未熟者ですが、たまたま、運よくさまざまな偶然が重なって、たくさんの方に支えられて、今回の結果につながりました。
2021年の秋ごろから動き出した本研究、約4年半と長い時間がかかりましたが、みなさんにこのウツボたちをアワウツボとサガミウツボとして紹介できていることが、とてもうれしいです。

現在ウェルカムラウンジでは、アワウツボとサガミウツボの標本展示をしています。
先月この標本展示の前で、アワウツボとあわたんのステッカーをお配りしたのですが、お客さまと直接お話しする中で、新種ということに興味を持ってくれる方や、このウツボを見に来たと言ってくれる方もいて、とってもうれしかったです。
こちらは6月末までの期間限定展示となります!!
サガミウツボは なかなかお目にかかれないウツボなので、標本で見られる機会はかなり貴重だと思います。 ぜひ見に来てください。

そしてアワウツボは、相模湾ゾーンの沿岸水槽で、生体を展示中です!
実際に泳ぐ姿、生きている時の色味、個体による模様の違い、生体ならではのようすを間近でご覧いただけます。
最近、沿岸水槽のアワウツボが面白いポーズをしていたようなので、ご紹介します。
この激レアショットは吉田トリーター提供です。

川の字アワウツボ川の字アワウツボ

これまで名前のなかったウツボたちが種として認められたこと、こんなに身近な海にもまだ名前のない生物がくらしていること、少しでも感じていただけたらうれしいです。
研究と言うと堅苦しく感じるかもしれませんが、これも重要な水族館という博物館の役割の一つです。
論文や解説を読まなくとも(頑張って書いたので読んでほしいですが…!)、水族館に遊びに来て展示を見て、それらが海への興味関心のきっかけとなったら本望です。
今回の研究を通して、いろいろなことを勉強させていただいたので、今後もこの経験を生かして頑張りたいと思います。

長々と書いてしまいましたが、そんな裏話でした。
ぜひアワウツボたちに会いに来てくださいね!


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